主な演目
 
土蜘蛛
作者不詳
季節秋(七月)
場所京・頼光邸→古塚
演目時間 約1時間

土蜘蛛

源頼光〈ツレ〉は病を患っていたので、侍女の胡蝶〈ツレ〉が典薬頭からの薬を持って見舞いにやってくる。

ある時もひどい発作をおこしたが、やがて鎮まっていた。夜が更けると、怪しげな僧〈前シテ〉が現れる。

その僧は頼光に蜘蛛の巣糸を投げかけるが、頼光が太刀をぬいて斬りかかると、蜘蛛に似た化け物となって姿を消す。

〈中入〉
そこへ駆けつけた独武者〈ワキ〉は郎党〈ワキツレ〉とともに血痕を見つけ、その跡をたどって化け物の行方を追う。すると上京辺りにある土蜘蛛塚に辿り着く。そこには古塚があり、塚を崩すと土蜘蛛の精〈後シテ〉が現れる。そして化け物は蜘蛛の巣糸を出して独武者と戦うが、ついに斬り伏せられ首を討ち落とされてしまう。

歌舞伎でも見られる古典劇の中でも人気の演目。シテが蜘蛛の糸を投げかける場面に注目。

 
巴
作者不詳
季節春(一月)
場所近江・粟津の原
演目時間約1時間20分

巴

信濃の国、木曽の僧〈ワキ〉が、粟津が原で休んでいると社の前で泣いている女〈前シテ〉がいた。

声をかけると、ここは木曽義仲を祭った社で、同郷であれば霊を弔ってくれるよう頼み消え去る。

〈中入〉
そして僧が弔っていると甲冑姿の女武者が現れて、義仲に仕えていた巴御前〈後シテ〉の霊であると明かし、粟津が原の合戦について語る。

特に義仲の最期において、巴御前が義仲とともに自害を決意するが、後を追うことは許されず形見を木曽へ届けるように託されたことを物語り、なお弔いを願って消え去る。

武者者がシテになる修羅能において、唯一女性が主人公の異色作。

 
羽衣
作者世阿弥(一説)
季節春(三月)
場所駿河・三保
演目時間約1時間10分

羽衣

駿河国、三保の松原に住む漁師の白龍(はくりょう)〈ワキ〉が、漁夫たち〈ワキツレ〉と釣りに出ようと浜に出ると、空から花が降り、美しい音色が響き、あたりには香しい匂いが漂う。

すると一本の松の枝に掛けてある美しい羽衣を見つける。白龍は家宝にしようと持ち帰ろうとすると、一人の女〈前シテ〉に呼び止められる。彼女は天人で衣は天の羽衣だという。

天人はその羽衣を取られると自分は天上に帰れなくなると言って嘆き悲しむので、白龍は羽衣を返す代わりに天上の舞楽をみせてくれと所望する。

天人は羽衣を身にまとい、月世界のことを語り、三保の松原の春の景色を愛でながら舞う。すると地上の世界があたかも極楽浄土になったかのよう。
天人は富士を見下ろして空遠く去って行く。

これが後の駿河舞として伝えられ、江戸期数多くの舞踊舞の原点となる。言葉がわからない海外でも演じられる代表演目。

 
熊坂
作者不詳
季節
場所美濃・赤坂
演目時間約1時間10分

熊坂

旅の僧〈ワキ〉が都から東国へ下る途中、美濃の赤坂にさしかかったとき、ある一人の僧〈前シテ〉に呼び止められ、「今日はある者の命日だから弔いを頼む」と言われ、その僧の庵室に導かれる。

見ると仏像はなく薙刀や鉄の棒が置いてあるので驚き尋ねると、「この辺は盗賊が多いので用心に備えてあるのだ」と言い、僧の身であさましいことだなどと物語るが、いつしかその姿も庵室も消える。〈前半が終了〉

〈中入〉で、赤坂の里人〈アイ〉が熊坂長範(くまさかちょうはん)の事柄を語る

〈後半〉で庵主の僧は熊坂長範(くまさかちょうはん)の霊の仮の姿だったと気付き、旅僧が弔いをすると、長範の霊が昔の姿で薙刀を手にして現れる。
霊は生前に牛若と金商人吉次の一行の泊まる旅館を大勢で攻め入ったが逆に斬り散らされ、自分も命を落とした仕方話で物語り、松が根の露霜とともに消えてゆく。

かりそめの夢と幻を表現する能として詩趣に富む演目。薙刀を使った迫力ある激しい舞と勇猛な所作が見どころ。

 
敦盛
作者世阿弥
季節秋(八月)
場所摂津・一ノ谷
演目時間約1時間25分

かつて源氏の武将だった熊谷直実〈ワキ〉は、一の谷の合戦で平敦盛を手にかけたことで、世の無常を感じて出家し、連生法師を名のる。
ある時法師は、敦盛の亡き後を弔おうと一の谷へと赴くと、笛の音が聞こえる。法師はその主を確かめようと待っていると、草刈の男たち〈シテ、シテ連〉が現れる。笛の音の主はその中の一人だった。

法師が話しかけると笛にまつわる話をするが、いつしか誰もいなくなりその笛の主〈シテ〉だけが法師の前に残る。
法師は不思議に思って尋ねると、笛の主は敦盛のゆかりの者で、念仏を授けてもらうために来たと答え、毎日法師が欠かさず弔いをしてくれることに謝意を述べ、その弔いを捧げている相手が自分であると言い残し消えてしまう。

〈中入〉
夜になって法師が敦盛を弔うための法事をしていると、敦盛の霊が現れる。敦盛は平家凋落の有様を語り、一の谷合戦の前夜に平家一門で催した宴を懐かしんで舞を披露する。やがて敦盛は、合戦での最期を再現して、法師にさらなる弔いを頼んで消えていった。

『平家物語』『源平繁衰期』に着想を得た作品。前シテが笛吹きの設定であるのは『平家物語』において、敦盛が討死の際に、青葉の笛を錦の袋に入れて腰にさしていたと言う記述をもとにしている。後シテは、武将姿で男舞・敦盛最期を勇壮に舞う。

 
三輪
作者不詳
季節秋(九月)
場所大和・三輪
演目時間約1時間30分

大和国の三輪の里に庵を構える玄賓僧都(げんびんそうず)という僧〈ワキ〉のもとへ、一人の女(シテ)が毎日、仏花である樒(しきみ)と、閼伽(あか)の水をもって来る。
僧都は女に乞われて衣を与え、女に住処を尋ねると「わが庵は 三輪の山もと恋しくは とぶらひきませ 杉立てる門」の古歌を残して消え去る。

〈中入〉
三輪明神に通う男〈アイ〉が、杉の木に先ほど女に与えた衣がかかっているを見つけ僧都にしらせる。
僧都が驚いて三輪明神の社に行くと、杉の内から声が聞こえ女体姿の三輪明神〈後シテ〉が現れる。明神は自身にまつわる昔物語をする。

大和の国に長年連れ添った夫婦がいたが、夫はなぜか夜しか姿を見せない。昼も一緒にいたい妻がそれを問い詰めると、彼はそれを拒んで別れを告げる。
妻は突然の別れの悲しさに、彼の住処を突き止めるため服の袖に苧環(おだまき)の糸をくくりつけますが、朝になってそれを手繰り寄せた先には三輪明神の杉の木につながっていたという。

やがて三輪明神は神世の物語を語りはじめ、神楽を舞う。天照大神の天の岩戸隠れの有様を表したのち、伊勢と三輪の神が実は同じ神体であることを明かして、夜明けとともに夢は覚める。

契りを結ぼうとした相手が、実は三輪明神であったという三輪山神婚説話を題材にした神秘的かつ壮麗な曲。『古今和歌集』の和歌や『古事記』の神話など、多くの作品の要素を含む。

 
是界
作者竹田法印定盛(一説)
季節不定
場所京・愛宕山、比叡山麓
演目時間約1時間15分

中国・唐の天狗の首領である是界坊(シテ)は、仏法を妨げようと日本へ渡ってくる。是界坊は日本の天狗である愛宕山の太郎坊に協力を求めるため、彼の庵室を尋ねる。

太郎坊のすすめによって是界坊は天台宗総本山の比叡山延暦寺を落とそうと目論むが、両者は天台の教えの偉大さに恐れおののき、仏敵となっている身の上を嘆き悲しみますが、やがて決意を固め比叡山へと出で立ちます。

〈中入〉
比叡山の僧(ワキ)が都からの勅使を受けて、都へ向かっているところ、突然嵐が吹き荒れる。雷鳴轟き大地が震動する嵐の中から是界坊が現れ、僧を魔道へと誘い込もうとする。僧は不道明王の真言を唱えて対抗。激しい攻防の末、やがて数々の仏法守護神に加えて各地の神々が加勢し、神風によって嵐を吹きとばす。
日本の仏力・神力の威力をまざまざと見せつけられ屈服した是界坊は、僧に二度とこの地に来ないと誓って、雲路はるかに逃げ帰って行く。

「鞍馬天狗」「大会」「車僧」などと共に、天狗を題材とした曲の一つ。一見、おとぎ話的な流れを見せているかのようだが、曲中に仏法の要素を壮大に取り込み、後半は中国一の大天狗と日本の神力仏力の総力がぶつかり合う、大迫力の展開。


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